欲求不満?








石田三成は何もないただ、広い青々とした草原に1人、立っている。

時折、強い風が草原の草花の中を走り抜けていく。

「ここは・・・どこだ?」

三成は静かに見渡す。

誰も居ない。

サワサワと草花の揺れる音だけが聞こえる。


―三成―


どこからか、か細い声が通る。

三成は声が聞こえた方に耳を傾けた。


―三成―


また、声が聞こえた。

「誰だ?」

三成は声のする方に進んでみた。

行けども、同じ景色。ただ、遠くに大木が見えた。

「まさか・・・な」

大木が呼んでいる?

そんな現実離れした考えが三成の頭を微かによぎった。

それでも、三成はその大木に向かって歩き出した。

大木の根元まで来ると、再び声が聞こえた。

「呼んでいるのか・・・お前が・・・」

三成はそう、語りかけていた。

突然、突風が吹き荒れ、足元の草木が三成の周りを吹き飛ぶ。

シュルルッ

それが合図だったかのように、長いものが三成の体に巻きついてきた。

よく見ると、大木の幹や根のようだ。

太いものから細いものが、足や手、体に絡まる。

「くっ、こんなものっ!」

三成は一生懸命ほどこうとするが、ゴムのように伸びては縮んでほどけなかった。

その間にも木の根や幹はさらに三成の体に巻きつき、

衣服の中までも進入してきた。

意思を持ってうごめく幹。

ゴムのようにしなる根。

三成の皮膚を滑らかに移動する。

「つぅ!!」

まるで三成を犯しているように幹や根は静かに這い寄ってくる。

「あ。」

思わず、声がもれた。

うごめく幹は三成の胸、首を伝い、中心へと辿り着く。

心とは逆に反応する。

少しづつ火照っていくのを三成は感じていた。

「や・・・」

抵抗しないといけないと、理性が信号を出す。

しかし、体がうまくいう事を聞いてくれなかった。

徐々に締め付けを強くする幹に三成の思考は少しづつ薄れていった。

「ん、んん・・・あ・・・」

衣服は乱れ、幹や根にもてあそばれた三成は不本意ながらも果ててしまった。

肩で息を整える三成に幹や根は暇を与えなかった。

中心を絡みつく根と幹はさらにその後ろの秘所へと進む。

ビクッ

三成は反射的に体をこわばせる。

「っ!!」

メキッという端が切り裂ける音がして、痛みが三成を襲った。

「や、あ・・・」

幹は三成の秘所を壊す勢いで激しく、いくつも進入する。

激痛が三成の思考を奪っていく。

前と後ろから攻め立てられ、三成の体は小刻みに震えた。

「あ、あぁ・・・」

三成は欲望に満たされ、大きく震えると一気に解き放った。





「うわぁっ!」

ガバッ

三成は自分の声で驚き、飛び起きた。

衣服が汗でびっしょりと濡れていた。

『気持ち悪・・・』

夢の内容もさることながら、この状況さえも気持ち悪かった。

ここ最近、同じ夢を見ていた。

生きている人ではなく、大木という自然に犯される夢を見るとは

自分はよっきゅう不満なのだろうか。と思いながら、苦笑いをこぼす。


「殿」

障子の向こうから左近の声がひびいた。

大きな声をしたせいで、心配をかけてしまったようだ。

とはいえ、こんな姿を見せられない。

「左近か、起こしてしまったようだな。大丈夫だ、心配ない」

そうはいっても連日つづく悪夢に精神が参っているのはわかっていた。

だが、左近には心配かけたくなかった。

「殿、失礼します」

三成の言葉を無視して、左近が障子を開けて中に入ってきた。

思わず、かけ布団で濡れた体を隠した。

「心配ないといっただろう」

「そうはいいましても、毎夜うなされる殿を放置しておくほど、左近は冷たくはありませんよ」

口の端に笑みをこぼし、左近は三成のそばへ歩み寄る。

「知っていたのか」

三成は仕事のため、大阪城下の館にこもっていた。

左近はその三成を心配して寝ずの番をしていたのだ。

「殿、湯浴みにいくのでしたら・・・」

左近は三成の状況を見て、そう気遣った。

三成はじっと目の前の左近の顔を見つめると、口を開いた。

「・・・左近、頼みがある」

「この俺でよければ。」

三成は左近をそばにもっと近寄らせると耳打ちをした。


―俺を抱いてくれ―


左近は一瞬、その言葉の意味が伝わらなかった。

三成と左近は主従関係でありながら、肉体関係もあった。

そのほとんどが左近から求めることもあり、三成から求めることは多くなかった。

そんな三成からの頼みに左近には驚いたのだ。

「嫌か?」

「いやじゃありませんけど、殿からねだるとは珍しいですね」

左近は心音が少しづつ速くなっていくのを感じた。

「欲求不満だ、そう思いたい・・・」

最近は仕事が忙しく、久しく抱き合っていないことが多かった。

三成はそう思い、願う。

「欲求不満ですか。ま、俺も同じようなものですけどね」

左近はそっと、三成の頬に手を添えると優しく唇を重ねようとした。

「左近・・・」

ねだった割りには三成は軽く制した。

「殿、どうかしたんですか?」

三成は視線を静かに自分の着ている衣服に移した。

うなされ、汗をかき、濡れている衣服。

左近は笑みを浮かべると。

「大丈夫ですよ、殿。また汗かくんですから」

そういって、唇を重ねた。

「ん、ん」

甘い口づけ。

愛しい人との行為。

それだけで全身が麻痺し、幸せを感じる。

夢のようなされるだけの行為とは違う。

三成は意識が遠のく瞬間、そう思った。

「殿、お慕いしていますよ」

左近はその愛しい温もりを離さないようにしっかりと抱しめた。

三成も同じように左近の背中に腕を回した。




後日。

左近と三成は片手にお茶を飲みながら、仕事合間に

のんびりとくつろいでいた。

その三成の顔は清々しかった。

最近は悪夢を見なくなったからだ。

「殿、顔色がよくなりましたね」

隣に座る左近は嬉しそうに言う。

「当たり前だ、悪夢を見なくなったからな」

三成も嬉しそうに返した。

「やっぱり欲求不満でしたか、殿?」

左近はからかうように耳元でささやいた。

三成はカァーと顔を赤らめて、

「そんなことをいうな、恥ずかしいっ!」

そういって、ぷいっとそっぼを向いた。

「でも証明されたでしょう」

「うるさいっ」

そんな三成が左近は愛しくて、ついつい頬に唇を落とした。

しばらくして、三成の鉄拳が飛んだのは後のことだった。





おわり